今さら聞けないオムニチャネルとは?わかりやすく基本と事例を解説

今さら聞けないオムニチャネルとは?_500x500pix

オムニチャネルとは、顧客があらゆる経路を自由自在に移動して情報収集や購買行動ができ、どのチャネルでも快適で利便性の高い体験ができる状態や概念、そのための仕組みを指す言葉です。

​​オムニ(Omni)は日本語で「すべての」という意味ですから、直訳すれば「すべての経路」となります。

「オムニチャネルによって、すべての経路で最高の顧客体験を提供する」取り組みは、現代のマーケティングシーンにおいて必要不可欠といっても過言ではありません。

しかしながら、こんな疑問をよく聞きます。

「販売チャネルを増やせばいいってこと?」

「マルチチャネルやクロスチャネルと何が違うの?」

オムニチャネルを成功させるためには、まずオムニチャネルを正しく理解しましょう。本記事では、オムニチャネルの基礎から事例までわかりやすく解説します。

 本記事のポイント
● オムニチャネルとは何かが基本のキから理解できる
 ● 混乱しやすい類義語との違いも丁寧に解説
 ● 具体例を通して実際に何をすることなのかイメージできる

「オムニチャネルって何なのか知りたい」

「オムニチャネルへの取り組みに興味がある」

…という方におすすめの内容となっています。

最後までお読みいただくと、オムニチャネルの概念を自分の中に落とし込み、自社や携わっている業務にどう活かすべきかが見えてきます。さっそく解説を始めましょう。

1. オムニチャネルとは何か?基礎知識

まずはオムニチャネルとは何なのか、基礎知識から見ていきましょう。

1-1. あらゆるチャネルを縦横どのようにでも経由できるオムニチャネル

オムニチャネルとは、顧客があらゆるチャネルを自由自在に経由して情報収集や購買行動ができる状態やその概念、仕組みを表す言葉です。

オムニチャネルの「オムニ」は日本語で“すべて、あらゆる”という意味と知っていると、理解しやすいでしょう。オムニチャネルを直訳すれば「あらゆる経路」となります。

辞書的な定義

経済産業省が平成27年のレポートで定義したテキストもご紹介しておきましょう。

消費者が商品の購入に至る過程において、実店舗、PC サイト、モバイルサイト (スマートフォン) 、ソツーシャルメディア、徒来型メディア (新聞・雑誌・TV) 、カタログ、DM 等、あらゆる販売チャネル・情報流通チャネルを経由する時代となっている。オムニチャネルとは、消費者がこれらの複数のチャネルを縦横どのように経由してもスムーズに情報を入手でき購買へと至ることができるための、小売事業者によるチャネル横断型の戦略やその概念、および実現のための仕組みを指す。

出典:経済産業省

概念を図解すると、以下のとおりです。

1-2. 顧客視点で「シームレス」な快適性・合理性があるのが特徴

オムニチャネルを理解するうえで押さえたいのは、単に複数のチャネルを準備するのとは異なる点です。

オムニチャネルの概念には、顧客視点で見たときに、チャネルの違いに気付かないほどシームレスで、快適かつ合理的である状態が含意されています。

例えば、“実店舗とECサイトでの購入で顧客情報が共有されていなかったり、顧客がチャネルの違いによるストレスを感じたりする状態”は、オムニチャネルではありません。

オムニチャネルでは、“顧客があらゆるチャネルを縦横どのように経由しても、顧客一人ひとりに最適化された一貫性のあるサービスが提供され、顧客がチャネルの違いに気付かないほどストレスレスに購買体験ができる状態”を目指すのが特徴です。

1-3. 2000年代に米国で生まれ2010年代以降に日本国内で注目が集まる

オムニチャネルの概念が生まれた背景に触れておきましょう。

初めて「オムニチャネル」という言葉を使ったのは、米国最大手の百貨店「Maycy’s(メイシーズ)」であるといわれています。

出典:Macy’s

「百貨店」という伝統的な業態が時代遅れとなる前に改革に乗り出したメイシーズは、2000年代からオムニチャネルのベースとなる取り組みを進め、2011年度には「オムニチャネル化宣言」をして話題となりました。

日本国内では2010年以降に注目され始め、特に2014年は「オムニチャネル元年」といわれるほど、物販業界でオムニチャネルが話題になった年でした。

▼ 「オムニチャネル」のGoogle検索件数の推移

2020年代以降の現在では一時のブームは落ち着いたものの、オムニチャネルの概念は定着。オムニチャネルを前提として経営戦略を考えるビジネスパーソンが増えているといえます。

2. 類似語を通して理解するオムニチャネル

オムニチャネルには、似た言葉があり「混同しやすい」「違いがわからない」という声を聞きます。

  • シングルチャネル
  • マルチチャネル
  • クロスチャネル
  • マルチチャネル
  • O2O
  • OMO

これらの言葉の意味を知ることは、オムニチャネルを理解するうえでも役立ちますので、ここで解説しましょう。

2-1. シングルチャネル

「シングルチャネル」は、企業と顧客をつなぐ経路がひとつの状態を指します。オムニチャネルとは真逆で対義語です。

例えば、「実店舗しかない百貨店」「ECサイトでしか買えないブランド」などは、シングルチャネルになります。

2-2. マルチチャネル

マルチチャネルは、シングルチャネルよりも進化して、チャネルが複数になった状態です。

例えば、「実店舗でもECサイトでも購入できるブランド」はマルチチャネルです。

ただし、実店舗とECサイトは連携していません。例えば、顧客の購入履歴や保有ポイントなどの顧客データは共有されていない状態です。

顧客は実店舗・ECサイトそれぞれで、イチから手間をかけて店員に説明したり、ポイントカードを作り直したりする必要があります。

顧客からすれば「買える場所が増えたのはうれしいけれど、二度手間で面倒くさい」様子です。

2-3. クロスチャネル

マルチチャネルがさらに進化すると、クロスチャネルになります。

クロスチャネルでは、チャネルが複数あるだけでなく、在庫情報を統合して管理するのが特徴です。

マルチチャネルは「新しい店舗を、複数のチャネルに出店する」というイメージなのに対して、クロスチャネルでは「同じ店舗の、買い方を複数用意する」というイメージです。

2-4. オムニチャネル

ここで、クロスチャネルの次を行く形態として登場するのが、本記事のテーマである「オムニチャネル」です。

オムニチャネルの特徴を改めてまとめておきましょう。

  • 複数のチャネルではなく「あらゆるすべてのチャネル」の網羅を目指す
  • 在庫だけでなく「顧客データ」も統合して一元管理する
  • 顧客視点で見たときに「シームレス」にストレスのない快適な体験を提供する

シングルチャネル→マルチチャネル→クロスチャネルと進化を遂げた結果、現時点での最終形態が「オムニチャネル」というわけです。

2-5. O2OとOMO

最後に、オムニチャネルの概念と親和性の高い考え方である「O2O」「OMO」をご紹介しましょう。

O2Oとは「Online to Offline」の略語で、オンラインからオフラインへ送客することを指します。2000年代頃によく聞かれるようになった言葉です。

例えば、“メールで届いたクーポン券を実店舗のレジで見せると割引になる”といった施策は、O2Oになります。

OMOは「Online Merges Offline」の略語で、オンラインがオフラインを包み込むように統合し、すべてがデジタルとなる世界を指しています。

O2O(オンライン→オフライン)という施策はもはや必要なくなり、すべてがオンラインになる今後の世界が「OMO」です。

O2O・OMOとオムニチャネルのつながりをまとめると、以下のとおりです。

  • 「オムニチャネル」の概念は、オンラインからオフラインへの送客(=O2O)のニーズが高まった2000年代に生まれた。
  • 社会のデジタル化によりオンラインとオフラインの垣根が消える(=OMO)現在では、オムニチャネルの重要性が高まり続けている。

3. オムニチャネルの取り組みで企業が得られる3つの効果

オムニチャネルの基本概念が理解できたら、次は「オムニチャネルって、何がいいの?」というところを見ていきましょう。

オムニチャネルに企業が取り組むと、大きく分けて3つの効果が期待できます。

  • 顧客体験(CX)が向上し顧客ロイヤルティが高まる
  • ライバルの競合他社に対して同質化戦略となる
  • 在庫管理や物流のコスト削減になる

それぞれ見ていきましょう。

3-1. 顧客体験(CX)が向上し顧客ロイヤルティが高まる

1つめの効果は「顧客体験(CX)が向上し顧客ロイヤルティが高まる」ことです。

このあと2つの効果も解説しますが、とにかくオムニチャネルで得られる効果といったら「CX向上・ロイヤルティ向上」に尽きます。

顧客体験(カスタマーエクスペリエンス、CX)とは、顧客がブランドとの接触を通して得る体験のことですが、オムニチャネル化はCXを向上させる最も有効な施策のひとつです。

あらゆるチャネルで顧客データを一元管理し、顧客がいつでも・どこでも最高のサービスを受けられる状態を構築することは、CXを著しく向上させるからです。

CXの向上は、顧客ロイヤルティ(ブランドや企業に対する顧客の愛着や信頼)の醸成につながります。

企業の財務的価値として言い換えるなら、解約率や顧客離脱率が低くなり、リピート率・顧客維持率が高まって、ひとりの顧客が長期的に購入し続けてくれるようになります。

結果として、売上アップとなることはいうまでもありません。

3-2. ライバルの競合他社に対して同質化戦略となる

2つめの効果は「ライバルの競合他社に対して同質化戦略となる」ことです。

オムニチャネルのクォリティに程度の差はあれど、現在では多くの企業がオムニチャネルに取り組んでいます。

前述のとおり、オムニチャネルが日本国内でホットワードとなったのは2014年のことですから、2020年代ではオムニチャネルは目新しい戦略ではありません。

ライバルの競合他社がオムニチャネルに取り組んでいる場合、自社も追随してオムニチャネルに取り組むことが、同質化戦略(競合他社の差別化ポイントや優位点を無効化する戦略)として機能します。

この効果を狙うのなら、競合他社と大きな差がつく前の打ち手として、スピーディに行動したいところです。

3-3. 在庫管理や物流のコスト削減になる

3つめの効果は「在庫管理や物流のコスト削減になる」ことです。

在庫を一元管理すれば、在庫管理業務の効率化ができ、人件費の削減につながります。

複雑化していた作業をシンプルにすることで、過剰在庫を抱えるリスクや欠品による機会損失を最小化できる点も大きなメリットです。

物流という観点から見ても、一元管理による倉庫や配送コストの削減という好影響があります。

4. オムニチャネルの事例

ここで、次のような疑問が浮かんでいるかもしれません。

「オムニチャネルって、具体的には何をすることなの?」

具体的なイメージをしやすくするために、成功企業の事例をご紹介しましょう。

4-1. 無印良品

オムニチャネルとは、

「単にチャネルを増やすことではなく、在庫管理や顧客管理を一元化して、どのチャネルでもシームレスな顧客体験をできるようにすること」

…という概念を理解するためにわかりやすい事例が、無印良品です。

無印良品では、“ネットとリアルを融合するサービス”として、2013年にいち早くスマホアプリ「MUJI passport」をリリースしています。

MUJI passportでは、​​店舗やネットストアでの購買履歴やアプリでの閲覧履歴、チェックイン履歴などの顧客データが一元管理され、顧客にはお気に入り商品の値下げ情報など、パーソナライズ化された通知が送られます。

加えて、顧客が欲しい商品の店舗在庫をアプリから確認できる機能が、特徴的です。

例えば、「今日は出掛ける用事がある」という顧客が、欲しい商品をMUJI passportで検索すれば、どの店舗に在庫があるかすぐ確認できます。

初めて訪れる店舗でも、MUJI passportの会員証を提示すればポイント(マイル)を貯めたり、クーポンを利用したりと、まさにシームレスな購買体験が可能になっています。

4-2. イオン

イオンは、ECやネットスーパーの拡大だけでなく「リアル店舗のデジタル化」という観点でリアルとデジタルの融合を加速してきた企業です。

例えば、「イオンスタイル有明ガーデン」(東京都江東区)では、

  • スマホで顧客自身が商品バーコードを読み取って専用レジで会計するレジゴー
  • 商品棚にデジタル販促として動画を配信するビデオレール
  • マグロ解体ショーのオンライン配信

…などを実施しています。

ビデオレールでは、備え付けのカメラでどんな人が見ているのか分析し、年齢や性別に合ったレシピを表示します。

「まるでオンラインのような顧客体験をリアル店舗で実現している」という点が、これからのオムニチャネル化の先進事例として秀逸といえるでしょう。

5. オムニチャネル化を推進するやり方

「自社でもオムニチャネル戦略に取り組みたい」

と感じている方も多いでしょう。

オムニチャネルへの取り組み方法は各社によってまったく異なります。というのは、オムニチャネルはとても大きな上位概念で、具体的な実践方法は業種・扱う商品サービス・会社の規模・各社の方針などによって百社百様なのです。

そこで最後に、良い実践につなげるために取り組みたい下準備・心構えを3ステップでご紹介します。

  • ステップ1:会社の経営方針としてオムニチャネル戦略を定める
  • ステップ2:カスタマー ジャーニー マップを作成する
  • ステップ3:顧客視点でシームレスなカスタマージャーニーへ改良していく

5-1. ステップ1:会社の経営方針としてオムニチャネル戦略を定める

1つめのステップは「会社の経営方針としてオムニチャネル戦略を定める」です。

オムニチャネルはマーケティングの分野で語られる概念ではありますが、マーケティング部だけで実現できるものではありません。

経営陣がリーダーシップを取って、全社の方針として取り組む必要があります。オムニチャネルを実現するためには、会社のあらゆる部署がかかわってくるからです。

オムニチャネルに取り組みたいと思ったら、まずは会社の経営方針としてオムニチャネル戦略を定めましょう。

もしあなたが経営者であれば、会社の経営方針にオムニチャネル戦略を盛り込んで、従業員たちに丁寧に説明をすることです。

ちなみに、多くの上場企業が、決算説明会の資料にオムニチャネル戦略について記載しています。決算説明会の資料を探してみるとヒントが得られるでしょう。

例えば、Googleで「決算説明会 オムニチャネル」と検索した結果がこちらです。

5-2. ステップ2:カスタマー ジャーニー マップを作成する

2つめのステップは「カスタマー ジャーニー マップを作成する」です。

全社の経営戦略としてオムニチャネルに取り組むと決めたなら、最初にしてほしいことはカスタマー ジャーニー マップの作成です。

カスタマー ジャーニー マップとは、顧客の一連のブランド体験を旅になぞらえて可視化したもので、オムニチャネルの全体像を描くために大変有益です。

代表的な顧客像であるペルソナを定めたうえで、ペルソナの行動や感情をタッチポイントごとに明らかにしていきます。

▼ ペルソナの例

▼ カスタマー ジャーニー マップの例

カスタマー ジャーニー マップを作ると、どんなCX(顧客体験)を創出していくべきなのか、自分たちのブランドのあるべき姿が見えてきます。

カスタマージャーニーについては、以下の記事を参考にしてみてください。

5-3. ステップ3:顧客視点でシームレスなカスタマージャーニーへ改良していく

3つめのステップは「顧客視点でシームレスなカスタマージャーニーへ改良していく」です。

カスタマー ジャーニー マップによって、顧客の行動や感情を可視化できたら、

顧客視点で「あらゆるチャネルにおいて、シームレスで快適で利便性が高く合理性の高いカスタマージャーニー」

を目指して、改良していきます。

これがいわばオムニチャネルの実践といえます。

前述のとおり、具体的な実践方法の中身は企業によって異なりますが、成功のコツは「カスタマージャーニーというブランド体験の全体像」を可視化してから実践を進めることです。

カスタマー ジャーニー マップは、あらゆるオムニチャネル施策の骨子となります。骨子をしっかり作っておけば、枝葉となる各施策も成功しやすくなるのです。

6. まとめ

オムニチャネルとは、顧客があらゆるチャネルを縦横自由に経由して情報収集や購買行動ができ、シームレスで快適なブランド体験を可能にする概念や仕組みを指します。

オムニチャネルに取り組むことで、企業は以下の効果を得られます。

  • 顧客体験(CX)が向上し顧客ロイヤルティが高まる
  • ライバルの競合他社に対して同質化戦略となる
  • 在庫管理や物流のコスト削減になる

オムニチャネル推進に取り組む流れを3ステップでご紹介しました。

  • ステップ1:会社の経営方針としてオムニチャネル戦略を定める
  • ステップ2:カスタマー ジャーニー マップを作成する
  • ステップ3:顧客視点でシームレスなカスタマージャーニーへ改良していく

本記事でオムニチャネルの基本が理解できたら、ぜひ実戦的な取り組みへチャレンジしていきましょう。

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