「マーケティングオートメーションを導入することになったけれど、
“シナリオ”ってどうやって作ればいいの?」
マーケティングオートメーションの運用をスタートするとき、最初の関門となるのがシナリオ作りです。
シナリオの良し悪し次第で、マーケティング成果のすべてが決まるといっても過言ではありませんが、具体的にどう取り組めば良いのか、戸惑いの声が多く聞かれます。
そこで本記事では、マーケティングオートメーションのシナリオに焦点を当てて、成果を上げるためのコツをご紹介します。
本記事のポイント
● マーケティングオートメーションのシナリオとは何かわかる
● 具体的な作り方を紹介
● 成果を出すためのポイントを解説
「マーケティングオートメーションのシナリオを作る必要がある」
…という方におすすめの内容となっています。
特に“シナリオ設計がはじめて”という方に向け、基本の考え方から意識すべきポイントまで簡単に解説しますので、ファーストステップとして参考になるはずです。
ではさっそく始めましょう。
1. マーケティングオートメーションのシナリオの基礎知識
まずはマーケティングオートメーションのシナリオとは何か、基礎知識から解説します。
1-1. そもそも「シナリオ」とは何か
そもそも「シナリオ」とは何かといえば、マーケティングオートメーションにおいて、顧客に対してどのようなアクションを起こすか定めた設計図のことです。
▼ シナリオのイメージ
一般的にシナリオといえば「映画などの脚本」が思い浮かびます。例えば、場面の構成、人物の動き、俳優のセリフなどを書き込んだものがシナリオです。
マーケティングオートメーションにおいては、「顧客の行動に応じて企業やブランドがどんなアクションをするか」を記述したものがシナリオとなります。
シナリオの例 |
資料請求した顧客に案内メールを送る。 案内メールを開封しなかった顧客に、内容を変えて無料セミナー招待メールを送る。 無料セミナー招待メールを開封した顧客に、リマインドメールを送る。 |
1-2. 良いシナリオ作成は人間の仕事
「マーケティングオートメーション」をそのまま捉えると、「マーケティングを自動化できるツール」となるため多いのが、こんな誤解です。
「マーケティングオートメーションは、効果的なシナリオを自動生成して実行してくれる」
しかし、シナリオの設定は自動化できません。
実際の業務としては、マーケティング担当者などマーケティングオートメーションの運用を担当する人がシナリオを設計したうえで、マーケティングオートメーションの管理画面から設定する必要があります。
“マーケティングオートメーションに、どのようなシナリオを実行させるか”次第で、マーケティング成果は大きく変わりますので、シナリオ設計は担当する人間の重要な仕事です。
マーケティングオートメーションが可能にする範囲
「どのみち、自分でシナリオを考えないといけないのなら、マーケティングオートメーションを導入する意味って何?」
……という素朴な疑問が浮かんでいるかもしれません。
人間の手作業でシナリオを運用するのではなく、マーケティングオートメーションを使う意義は、マーケティングオートメーションがあれば以下が可能になるからです。
- 顧客の特定の行動をトリガー(きっかけ)として、コミュニケーションを発動する
- 顧客の属性や行動履歴、興味関心によって届けるコンテンツを出し分けする
- 自社が保有するチャネル(自社サイト、メールなど)だけでなく、Web広告やSNSなど複数チャネルを連動させる
今までのマーケティングであれば、顧客全体に対して一括したシナリオを実行していました。たまたま、そのタイミング・その内容にマッチした顧客だけが反応する状態です。
しかし、マーケティングオートメーションを使うと、顧客一人ひとりの行動や現在の心理状態を基点として、個別のシナリオを展開できます。
ここにマーケティングオートメーションでシナリオを実行する意義があるのです。
2. 成果を出すマーケティングオートメーションのシナリオの3つの条件
シナリオの基礎知識が把握できたところで、ここからは具体的に成果を出すシナリオを作るために大切なことをお伝えしていきます。
取り組みのマインドとして、成果を出すためには次の3つの条件を満たす必要があることを、押さえてください。
- 実在の顧客の行動を知り尽くしている
- ブランドとしての一貫性が保たれている
- 顧客ロイヤルティの醸成に寄与する
それぞれ解説しましょう。
2-1. 実在の顧客の行動を知り尽くしている
1つめの条件は「実在の顧客の行動を知り尽くしている」です。
マーケティングのシナリオを設計すると聞くと、
「顧客をシナリオに従って動かす」
ことだと勘違いされるケースがありますが、これは大きな間違いです。
マーケティングオートメーションのシナリオは、あくまでも実在する顧客の自然な行動の観察や分析を基点として設計されるべきといえます。
マーケターが作成したシナリオに顧客を従えるのではなく、顧客の行動に従って、企業やブランドのコミュニケーションを最適化するのがシナリオの本質であると心得ましょう。
この点さえしっかり理解していれば、良質なシナリオを作成するマインドセットはできたといっても過言ではありません。
2-2. ブランドとしての一貫性が保たれている
2つめの条件は「ブランドとしての一貫性が保たれている」です。
設計するシナリオにおいて、発するメッセージや提供する世界観に矛盾が生じ、整合性が取れなくなると、顧客の信用を失うので注意してください。
これは「会うたびに言うことが違う人が信頼できない」のと同じことです。
シナリオの矛盾を解決するために最適な方法が、「ブランド」という一本の軸に対して整合性を取ることになります。
あらゆるシナリオをブランドと整合させることで、顧客視点で見ても一貫性が生まれ、信用性が増すと同時に、望ましいブランドイメージが定着していきます。
2-3. 顧客ロイヤルティの醸成に寄与する
3つめの条件は「顧客ロイヤルティの醸成に寄与する」です。
優れたシナリオとは、顧客ロイヤルティを醸成するシナリオであるといえます。
顧客ロイヤルティとは、顧客が企業やブランドに対して抱く忠誠心(特別な愛着や信頼)のことですが、シナリオの設計を通してマーケターが目指すべき目標は、顧客ロイヤルティを高めることです。
シナリオ設計に取りかかる前に、顧客ロイヤルティについての知識を身に付け、何をすれば顧客ロイヤルティが高まるのか把握しておくと良いでしょう。
以下に参考記事をリンクしますので、ぜひご一読ください。
- 顧客のロイヤルティを構築するために本当に必要なもの
- 顧客満足度と顧客ロイヤルティの違いとは?3つの切り口で具体的に解説
- LTVを高めるための3つのロイヤルティ戦略
- ロイヤルティプログラムで勝利を掴む5つの方法
3. マーケティングオートメーションのシナリオ設計 4ステップ
次に、具体的にマーケティングオートメーションのシナリオを設計する流れを4ステップでご紹介します。
- ステップ1:ペルソナ設定
- ステップ2:カスタマージャーニー作成
- ステップ3:シナリオ設計
- ステップ4:スコアリング設計
3-1. ステップ1:ペルソナ設定
1つめのステップは「ペルソナ設定」です。
シナリオを作成するうえでは“実在の顧客の行動を知り尽くしている”ことが重要、とお伝えしましたが、そのための有効な手段となるのがペルソナの設定です。
ペルソナとは、代表的な顧客像をリアルに描写して明文化し具体的にイメージしやすくする手法で、顧客の行動を深く洞察するために役立ちます。
▼ ペルソナの例
ペルソナは架空の人物像ではありますが、マーケターの空想で作るのではなく、実在する顧客を分析し、共通する属性や行動パターンを抽出して擬人化するのがポイントです。
よって、まずは自社の顧客の情報を集めるところが、ペルソナ設定の第一歩となります。
3-2. ステップ2:カスタマージャーニー作成
2つめのステップは「カスタマージャーニー作成」です。
カスタマージャーニーとは、顧客(ペルソナ)の一連のブランド体験を「旅」になぞらえた概念です。
カスタマージャーニーを時系列で可視化した表を「カスタマー ジャーニー マップ」と呼びます。
▼ カスタマー ジャーニー マップの例
カスタマー ジャーニー マップでは先に作成したペルソナを主人公に、顧客がブランドを認知して購入するまでのプロセスや、リピート購入しロイヤルカスタマーになっていくまでのプロセスを描きます。
顧客の行動や感情は、できる限り既存顧客の行動データや事実に基づいて、ファクトベースで記述していきましょう。
ペルソナ・カスタマージャーニーの作成方法について詳しくは以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。
3-3. ステップ3:シナリオ設計
3つめのステップは「シナリオ設計」です。
作成したカスタマー ジャーニー マップを元に、実際に顧客に対してどんなアクションをしていくか、コミュニケーションのシナリオに落とし込んでいくのが、このステップです。
まず、カスタマー ジャーニー マップに沿って、どんなコミュニケーション施策が必要か整理します。
ポイントは、感情変化が「ネガティブ」になるタッチポイントは改善し、「ポジティブ」はより促進するコミュニケーションを実践することです。
この段階では、理想のコミュニケーション施策をすべて洗い出します。
すべて洗い出したうえで、新しくコンテンツを制作するもの・既存のコンテンツで対応するものなどを整理していきます。
必要な施策が膨大になり過ぎる場合には優先順位をつけて、より重要性・緊急性の高いものから着手できるようにしましょう。
3-4. ステップ4:(BtoBの場合)スコアリング設計
4つめのステップはBtoBかBtoCかで分かれます。BtoBの場合には「スコアリング設計」を行いましょう。
設計したシナリオを、カスタマー ジャーニー マップに沿った形で自動化するためには、顧客がカスタマー ジャーニー マップのどの地点にいるか、判定できるようにする必要があります。
そこで活用されるのが「スコアリング」の機能です。
スコアリングとは、見込顧客の属性や行動を元に、見込顧客の「見込度」を数値化する機能です。
▼ スコアリング要素の例
スコアリングでは、カスタマージャーニーの旅の進み具合に応じて、旅が進んでいれば(=購買意欲が高まっていれば)スコアを加算し、旅が後退していれば(購買意欲が減退していれば)スコアを減算すると捉えるとイメージしやすいでしょう。
例えば、スコアが加算される行動として、以下が挙げられます。
- 広告をクリックする
- 特定のWebページを閲覧する
- 一定時間以上Webサイトに滞在する
- 資料請求する
- メールを開封する
スコアリング設計ができたら、マーケティングオートメーションのシナリオを実行する準備が整いました。
テスト的に少人数で運用して問題がないかチェックしたうえで、本格運用へと進みましょう。
3-5. ステップ4:(BtoCの場合)ロイヤルティプログラム構築
次にBtoCの場合のステップ4をご紹介しましょう。「ロイヤルティプログラム構築」です。
前述のスコアリング機能を利用することも可能ですが、BtoCで成果をあげるためにおすすめなのは、スコアリングよりもロイヤルティプログラムによって、顧客ロイヤルティを高めていく手法です。
顧客ロイヤルティとは?
顧客の忠誠心。ブランドや企業に寄せる特別な愛着や信頼のこと。継続購入する意欲の原動力となる。
というのは、見込顧客を成約(初回購入)に引き上げることが重要なBtoBとは違い、BtoCでは初回購入した後で、いかに顧客ロイヤルティを高められるかが重要だからです。
重要指標としてモニターすべきは「見込度」ではなく「顧客ロイヤルティ」といえます。
ロイヤルティプログラムとは?
ロイヤルティプログラムとは、特典の付与や特別な顧客体験の提供を通して、顧客ロイヤルティを醸成するためのプログラムです。
例えば会員ランク制度、ポイント制度、優先販売、限定イベントなどは、ロイヤルティプログラムの一種といえます。
※ロイヤルティプログラムについて詳しくは「ロイヤルティ プログラム」をご覧ください。
シナリオとロイヤルティプログラムは行き来しながら設計する
ここではステップ4として「ロイヤルティプログラム構築」をご紹介していますが、実務ではシナリオ設計とロイヤルティプログラム構築のプロセスは並行し、行き来しながら互いを調整していきます。
カスタマージャーニーやジャーニーに基づくシナリオを元に、顧客の自然な行動に合うロイヤルティプログラムを目指しながら、逆に設計するシナリオでは、顧客ロイヤルティを高めるための施策を投入する——といった具合です。
BtoCはスコアリングなしでシナリオの運用がおすすめ
「作ったシナリオは、スコアリングなしで運用できるの?」
と不安な方がいるかもしれませんが、BtoCではスコアリング機能を使わず、シンプルに顧客の行動をトリガーとしてシナリオを運用した方がうまくいくケースが多いでしょう。
例えば「スコアが●点になったらメールを送る」といったアプローチで複雑にするよりも、
「初めての購入から3日後にメールを送る」といったシンプルなアプローチの方が実務的です。
4. 成果を出すマーケティングオートメーションのシナリオを作るコツ
最後に成果を出すマーケティングオートメーションのシナリオを作るコツをお伝えします。
- 実在の顧客を“しっかり見て”作る
- クリエイティブ制作のリソースを確保する
- PDCAサイクルを高速で回す
4-1. 実在の顧客を“しっかり見て”作る
1つめのポイントは「実在の顧客を“しっかり見て”作る」ことです。
“マーケティングオートメーションのシナリオ設計”と聞くと、何か特別なテクニックがあるように思われがちですが、実体は「マーケティングのコミュニケーション戦略設計」です。
マーケティングオートメーションを利用する・しないにかかわらず、顧客への効果的なコミュニケーション戦略を考えることが重要です。
そのためのコツは何かといえば、実在する顧客の行動をよく観察し、顧客視点になり、顧客の気持ちをよく理解することといえます。
顧客理解があれば、必ず成果を出すシナリオを作れるはずです。
4-2. クリエイティブ制作のリソースを確保する
2つめのポイントは「クリエイティブ制作のリソースを確保する」ことです。
意外と盲点となっているのが、コミュニケーションシナリオを設計し、マーケティングオートメーションで自動化するためには、必要コンテンツのクリエイティブ制作という重要タスクが伴う点です。
広告クリエイティブはもちろん、Webページのコンテンツ制作、メール文のライティングなど、シナリオ実行には必ずクリエイティブ制作が付いてまわります。
どれだけ優れたシナリオを設計しても、最後のクリエイティブの詰めが甘ければ、狙い通りの効果は発揮できません。
社内にクリエイティブのリソースがなければ、外部の制作会社と連携するための予算やスケジュールの確保が必要になります。
4-3. PDCAサイクルを高速で回す
3つめのポイントは「PDCAサイクルを高速で回す」ことです。
マーケティングオートメーションのシナリオは、実行しながらいかにブラッシュアップを積み重ねられるかで成功が決まるといっても過言ではありません。
ブラッシュアップなしに一発で望む成果があがることはまずありませんので、いかに数多くPDCAを回せるか?という視点を持って運用しましょう。
高速でPDCAを回すためには、複数のシナリオを同時に実行し、結果の良かったシナリオを生き残らせていくと、スピーディな運用が可能になります。
5. まとめ
成果を出すマーケティングオートメーションのシナリオの3つの条件はこちらです。
- 実在の顧客の行動を知り尽くしている
- ブランドとしての一貫性が保たれている
- 顧客ロイヤルティの醸成に寄与する
マーケティングオートメーションのシナリオ設計を4ステップでご紹介しました。
- ステップ1:ペルソナ設定
- ステップ2:カスタマージャーニー作成
- ステップ3:シナリオ設計
- ステップ4:スコアリング設計/ロイヤルティプログラム構築
成果を出すマーケティングオートメーションのシナリオを作るコツは以下のとおりです。
- 実在の顧客を“しっかり見て”作る
- クリエイティブ制作のリソースを確保する
- PDCAサイクルを高速で回す
マーケティングオートメーションの成功はシナリオにかかっています。小手先のテクニックに頼ることなく、骨太のシナリオ作成に取り組んで、着実な成果を目指しましょう。