テクノロジーを活用しつつ「つながり」や「会話」などの人間性を重視、スターバックスが実践するパーソナライゼーションとリレーション マーケティング戦略

世界中にチェーン展開するシアトル発のコーヒー ショップ、スターバックス。1971年にハワード・シュルツ氏が創業し、顧客だけでなく、店内で緑のエプロンに身を包むパートナーにとっても、新たな体験を生み出せるように常に革新を続けています。

チーターデジタルはパートナーとして、必要なキャンペーンについて考え、実際にキャンペーンを実施するなど、長年スターバックスのマーケティング分野に携わってきました。さらに、ポイント プログラムの導入も支援しています。スターバックスの大胆で巧みなパーソナライゼーション戦略により、なんと完全カスタマイズの注文は60%以上。

今回、Signals Executive シリーズとして、チーターデジタルのティム・グロム(VP Content and Data)が、シアトルにあるスターバックス本社を訪れ、スターバックスでマーケティングテクノロジーと品質エンジニアリングを担当するVPのバーバラ・スピアリング氏に、同社のパーソナライゼーションとリレーションマーケティング戦略についてお話を伺いました。本稿では、インタビューのダイジェストを紹介します。

スターバックスでは「つながりがすべて」

VP Marketing Technology and QOPS, Starbucks Technology バーバラ・スピアリング氏

同社でVPを務め、マーケターとお客様をつなぐためのツールの開発に携わるバーバラ・スピアリング氏はまず、スターバックスでは「つながりがすべて」だと語ります。

「当社の基本は、お客様やパートナーが職場や自宅以外で過ごせる『第三の場所』、コミュニティとのつながりを体感できる場所を提供することです。スターバックスと聞いて誰もが思い浮かぶのは、自分がいつも注文するものを覚えてくれていたり、仕事帰りなのか、週末に子供を連れてきているのか、娘は何が好物なのかといったことを把握した接客ではないでしょうか。真のパーソナライゼーションとはこういうことであり、当社の基礎となるお客様、バリスタ、コミュニティのつながりなのです」

テクノロジーを駆使しながらも、人と人とのつながりを重視する同社。そこではテクノロジーがどのような役割を担っているのでしょうか。

「現実世界とデジタルの世界とのギャップを埋めることが、テクノロジーとチームの目標です。店舗に来店した時と同様に、あらゆるデジタル チャネルでお客様を識別し把握できるのです。モバイル注文で支払いを済ませ、バリスタがそれをプリントアウトし、実際に商品を受け取るというシームレスな体験が可能になります。このような体験全体を通じて、お客様一人ひとりを識別すること、それが当社の主な目標です。テクノロジーを活用することでバリスタの業務を簡素化し、バリスタがお客様一人ひとりの顔を見て個別につながりをもてるようにし、して、お客様との真のつながりを妨げる反復作業や手作業をなくすことがお客様の来店につながっているのです。(顧客は)デジタルの世界でも現実世界でも『自分を識別してもらいたい』と感じています。バリスタにはこれを実現してもらいたいのです」

スターバックスが毎年行っている消費者動向調査では「割引はありがたいけどもっと重要なのは自分を識別してもらうこと」という意見が寄せられました。これはロイヤルティ向上に非常に重要な要素ですが、同社ではどのような状態を理想とし、顧客の識別を行っているのでしょうか。

「バリスタがお客様を識別できる状態が最も理想的です。バリスタがお客様を識別して挨拶できる状態です。でも顧客は普段行かないような店舗でも、自分が識別してもらえたと感じてもらいたいのです。モバイル注文したお客様の名前を来店時にバリスタが把握し、自然な形で会話を続けられるようになっているため、どこの店舗でも普段と同じように注文することが可能です。バリスタとお客様が対話を続けられるように、橋渡しをしているのです」

このような実例からも、スターバックスはリレーションシップ マーケティングの第一段階と呼ばれるパーソナライゼーションでは世界有数の企業と言えるでしょう。スターバックスのマーケティング戦略では、パーソナライゼーションはどの程度重要なのでしょうか。

「(パーソナライゼーションは)基本中の基本です。名前を呼ぶという戦略以上に重要な要素で、『ハーフサイズのキャラメル マキアートにキャラメルを追加したい』といった具合に今や60%を超える注文がカスタマイズされています。本物で誠実なやりとりを通じて、自分に合った商品にカスタマイズできます。ライフサイクル全体を通じて、お客様とのつながりと関係性を築くことが真の目標なのです。お互いを知ることによって、愛の絆が生まれると考えています」

では、ユーザーのパーソナライズにおいて、同社が提供するモバイル アプリはどのように機能しているのでしょうか。

「(アプリは)当社にとって基本となるツールであり、パンデミック以降はさらに重要性が高まっています。お客様はよりデジタルな注文方法へと移行しているのです。しかし、単に注文を迅速化することがアプリの目的ではありません。来店して口頭で注文することや、メニューを読むことが困難なお客様にとっても、より身近で使いやすさを感じてもらいたいのです。モバイルアプリを使うことでお客様に合わせた体験を提供し、どこにいてもお客様のニーズに合った方法でやりとりができます」

自社の商品において、リレーションシップ マーケティング戦略を強化し、洗練されたものにするには、「自社の本当の姿」を理解することが欠かせないとバーバラ氏は続けます。

「まずは『発想が逆』だと理解することです。当社は、テクノロジーをフル活用するコーヒーの会社だということを強調しておきます。組織や企業として成功するには、自社の真の姿を理解する必要があります。何に力を入れ、何を支持し、コアバリューは何であるか。当社の場合、ミッションとコアバリューは不可欠な要素です。お客様との対話と関係構築を始める際は、このことを前面に押し出すようにします」

バーバラ氏は、顧客は「何を支持しているかが明確な企業や自分と何らかのつながりがある企業、相性が良いと思う企業を選ぶようになっている」と語り、友人やパートナーとの関係と同様に、自社の価値観や立場を明確にしていると話します。

「これは緑のエプロンを纏ったすべてのパートナーにとって大変重要なメッセージです。自社がどんな存在かを理解せずに、お客様との関係構築やマーケティングはできません。ですからテクノロジーには伝えたいメッセージが伴うべきなのです。テクノロジーだけ、メッセージだけに頼っていては長期間にわたる売上の増加は見込めないのです。真のブランド支持を得るには関係構築が必要です。共感が得られ価値観が一致していれば、信頼が得られるからです」

リレーションシップ マーケティングを実践する上では「双方向の関係」が欠かせません。スターバックスでは具体的にどのような関係構築を行い、それをどうマーケティング戦略に反映させているのでしょうか。

「これにはさまざまな方法があります。一つは店舗で働くパートナーの意見を聞くことです。直接接客しているパートナーは、お客様そのものだと言えます。顧客体験とパートナー体験は等しいものであるため、パートナーの声に必ず耳を傾けます。パートナーはお客様からどんな意見を聞き、どんなことに興味をもち、夢中になっているのか。それが私たちの伝えるメッセージに反映されるべきです。もう一つはお客様の声に耳を傾けることです。今TikTokでドリンクが流行っていますよね。お客様自身でカスタマイズしたドリンクをTikTokで拡散してもらうのです。それを店舗メニューとして採用する方法を探しています。ピンク ドリンクはTikTokドリンクとして始まりました。そこでお客様の声に耳を傾け、他の人にそれを盛り上げてもらい店舗のメニューとして取り入れる。そういった取り組みをどう示すのかを考えなければなりません」

チーターデジタルとのパートナーシップ

スターバックスとチーターデジタルは、15年間の付き合いがあり、その中で電子メール、バルクメール、取引メールなどあらゆる取り組みを行ってきました。スターバックスはチーターデジタルのパーソナライゼーション エンジンを使い、リレーションシップ マーケティング戦略に活かしています。

「多くのスターバックス リワード会員が目にする当社やチーターとのやりとりの一つに、キャンペーンの案内があります。『今週4回来店するとスターを大量に獲得できます』とか『この商品を試してみてください』といった案内です。『Deep Brew』のアルゴリズムとチーターが連携しています。チーターは、当社が案内したキャンペーン内容に応じて通信を行い、進捗を追跡します。所定のハードルを最終的にクリアした人に、スター獲得の権利が与えられるのです」

同社が数ある企業の中からチーターデジタルを選んだ理由と経緯について、バーバラ氏は次のように話します。

「チーターとの付き合いはとても長く、常に素晴らしいパートナーシップを築いてきました。パーソナライゼーションに取り組もうとしていた時に、当然ながら数多くの企業を検討しました。各社にはさまざまな強みがあります。当社が注目したのは、テクノロジーやロードマップだけではありません。提携したいと思える会社か、同じミッションや価値観を共有できるか、従業員は満足しているか、お客様との関係と同じでなければなりません。当社のサプライヤーとの関係は、長期的な目線では大変重要な要素です。チーターはこの条件を満たしていたため、このパーソナライゼーション プラットフォームの構築に至ったのです」

さらに、チーターデジタルをパートナーとしたことで、両社が互いに協力できる体制を築くことができたと、バーバラ氏は続けます。

「実に驚くべきことは、このプラットフォームの実装が必要になり立ち上げようとしていたレベルから、今ではやりたいこと、進みたい方向、抱えている問題点を話し合うレベルまで進んだということです。そしてチーターの製品チームとの共創的な対話により、単なるアプリの導入や当社専用のカスタマイズだけでなく、両社共同で何らかの支えとなるようなものを生み出せるようになったのです。それができたのも、この新たな機能を組み込み、当社との対話を重ね、両社が今後どのように協力していくかを協議できるようになったからです」

パーソナライズとプライバシーの関係

昨今では、パーソナライゼーションの重要性が語られる一方で、プライバシーの強化も求められています。スターバックスでは、プライバシーとパーソナライゼーションのバランスについて、どのように考えているのでしょうか。バーバラ氏は、今後も法律は変わり続けること、そしてそれを単に作業として遵守するだけでは不十分だと話します。

「お客様が求めるのは、自分のデータを代わりに管理してくれる第三者です。お客様はデータ交換の価値について知りたがっています。私たちが欲しいデータを提供すれば、見返りを得られるというものです。そうすれば『ありがとう。クッキーを買って帰ります』と言ってくれるかもしれません。第三者機関をどのようにして設立し、お客様のニーズに応えられるかを話し合っています。お客様のニーズは高まり続け、そのハードルも上がり続けています。第三者機関ができれば法的要件も満たせますが、私たちの焦点はお客様です。ですからお客様から信頼を得てデータを保護し、第三者を介してデータを維持する方法を追求しています」

チーターデジタルでは、価値交換を通じてブランドに顧客が進んで提供する情報を「ゼロパーティデータ」と定義しました。ここでもバーバラ氏は、「会話」が重要だと話します。

「ここでも重要な言葉は『会話』だと思います。なぜ重要かというと、人間関係には対話が伴うからです。対話から、あなたが出かけてそれを買ってきたとわかるのです。会話は自由な形で行われます。その対価として価値が生じ、対話と関係性が生じるのです。お客様のことをもっと知りたいのです。お客様がベジタリアンであることを知っていれば、ソーセージブレックファーストのキャンペーンを案内することもありません。お客様には無関係で興味のない内容だからです」

さらに、リレーション マーケティングの観点からも、マーケターには「会話」そして「質問をすること」も重要視して欲しいと続けます。

「リレーションシップ マーケティングをするなら、質問をしなければなりません。未知から既知になる唯一の方法は質問することです。名前を聞くことから始めるのです。(相手を)気遣うというのは素晴らしい方法です。マーケターはもっと人間的になって、相手を気遣うようにならないといけません。私が思うにそれがテクノロジーの最大の強みなのです。人間的な体験を排除するのではなく、もっと豊かな体験を得られるようにし、会話のための手段を提供するのです」

パートナーがコミュニティの起点

スターバックスで人間同士のつながりや理解、関係構築の成功事例としてバーバラ氏は「Neighborhood Grant」プログラムを挙げました。

「テクノロジーとは無関係ですが、スターバックスの根幹をなしている『Neighborhood Grant』というプログラムがあります。このプログラムを通じて実際にパートナーから地域の慈善団体を紹介してもらい、スターバックスが助成金を提供して素晴らしい活動を継続できるようにしています。当社の資金がコミュニティにそのまま注がれ、つながるのです。当社のパートナーはコミュニティの構築と会話に参加します。その地域で生活し、働くパートナーはコミュニティのニーズや素晴らしい活動について理解しています。このプログラムの開始以来行ってきた寄付は550万ドルを超えていると思います。これがコミュニティの構築であり、パーソナライゼーションなのです」

そして、コミュニティの起点となるのはパートナーであり、そこから地域の顧客を理解していくことが重要だと続けます。

「起点となるのはパートナーです。重要なことや地域のニーズ、素晴らしい活動を行っている人についてパートナーが教えてくれます。役員会議室やどこかのオフィスにいる数人の役員の意見を聞くよりも、これを認識することの方が極めて重要です。自分たちのお客様のすぐ近くに住み、実際に店舗に足を運ぶ人たちの意見に耳を傾けるのです。そして、小さなグループが実に大きな影響を与えていることを知るでしょう。でもシアトルの大企業がテキサスの小さな町に住む人々の声をすくいあげるのは、簡単ではありません。つまりこの活動で、そのコミュニティに大きな影響を与えているグループが可視化され、必要な資金を確保してその活動を継続できるのです」

テクノロジー分野でさらなる女性の活躍を

バーバラ氏は、テクノロジー分野においてもっと女性が必要だと語ります。

「この分野において、もっと女性の活躍が必要であることをまずお伝えしたいです。私の場合、この分野における直属の上司は女性であることがほとんどでした。ご存じのとおり、ここ数年間CTOを務めた人物は女性でした。私たちのような立場の女性を見て、刺激を受けることができるはずです。そのためには、若い才能に焦点を絞り、若い女性のSTEMプログラムへの参加を促すしかありません。女性の割合が低いセキュリティやSRE部門などに注目し『女性がこのような役割に就ける方法』を考えるのです。『自分みたいな人もいる』『自分は必要とされている』と思ってもらえるように透明性を確保し、今までに例を見なかった経歴や会話を尊重することで、テクノロジー企業として強い存在になれるのです」

施策への取り組みを上層部に理解してもらうためには「理性と感情の融合」が重要

パーソナライズやより優れたテクノロジーの必要性は理解していても、自社ブランドで同じことを進められないマーケターも少なくありません。なかなか上層部に訴えかけることができないマーケターに対し、バーバラ氏は最後に次のようなメッセージを語りました。

「数字が物語っています。チーターのパーソナライゼーションの価値に関するケーススタディによると、パーソナライゼーションにより、費用に見合ったROIを得られることが数字で証明されています。しかし、それと同じくらい重要なのは、お客様に伝えたいメッセージとその理由について理解しておく必要があるということです。伝えたい内容や構築したい関係を理解していなければ、効果的なパーソナライゼーションにならないからです。この2つの要素を組み合わせることで、より高い効果が得られます。『理性と感情の融合』、これが伝えたいメッセージですね」

バーバラ氏の示唆に富んだ回答や詳細については、ぜひ動画でご確認ください。

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