Ascendant Loyalty Marketingとのブログシリーズの最終回となる本記事では、LTV(顧客生涯価値)に焦点をあて、LTVの計測がロイヤルティ マーケティング戦略になぜ重要なのか、そしてLTVの正しい分析に役立つ5つの指標をご紹介します。
LTVはロイヤルティ マーケティング戦略の重要なKPI
LTV(顧客生涯価値)は、ロイヤルティ マーケティングにおいて最も重要なKPIの1つです。LTVとは、自社との関係全体における顧客の価値の合計を測定するものであり、通常は売上や利益で示され、顧客が商品やサービスに支払った金額、あるいは顧客とブランドとの生涯にわたる関係の中でブランド側が実現したマージン(粗利益)の金額を示しています。
LTVと顧客ロイヤルティには密接な関係があります。ロイルティ プログラムの実施目的は当然LTVの向上ですので、そのためにリワードプログラム、ポイントプログラムなど、様々な手法をブランド企業は実行しています。
リワードプログラムの主な評価指標は、「来店回数の増加率」「注文/コンバージョンの増加率」「平均注文額の増加率」「商品/サービス利益の増加率」などで、時間の経過とともに、これらの指標はLTVを徐々に向上させていきます。
LTVを理解することで、新規顧客獲得や顧客サービスにどれだけの予算をかけられるか、そして持続可能なビジネスを継続するためにどれだけのマージン(粗利益)が必要かを把握することができます。つまり LTVを向上させることで、顧客獲得、サービス提供、商品開発などの予算を増やすことができるのです。
LTVの計算式
LTVは通常下のような数式で計算されます。
平均購入額(AOV)× 特定期間(週/月/年)での購入数 × 顧客寿命
例えば、顧客が1回の購入に50ドルを使い、それを年に3回続けた場合、予想される購入期間(顧客寿命)が10年であれば、平均LTVは 50ドル × 3 × 10 =1,500ドルとなります。
しかし、LTVの具体的な計測指標として顧客の購入金額だけに焦点を当てるのはあまり得策ではありません。なぜなら、ビジネスには常に新規顧客獲得や優れたサービス提供などにどれだけのコストがかかっているかを予測したり、どの顧客が一番LTVが高いかを分析する能力が求められるからです。
そのため、ここからはLTVをより正しく分析するために必要な5つの指標をご紹介します。
1. マージン(粗利益)
LTVには、販売した商品の原価が含まれていることを忘れてはなりません。例えば、あるお客様が年に3回、50ドルの買い物を10年間続けた場合、1,500ドルの購入金額の合計には、商品の原価が含まれています。その商品のマージン(粗利益)が20%だとすると、1,500ドルのうち1,200ドルが商品の原価になります。つまり、残りの300ドルで、新規顧客獲得やサービス提供などのコストを賄う必要があり、マージンが高いほどビジネス運営にかけられるコストに余裕が生れるため、ロイヤルティ プログラムなどにより多くの投資ができるようになります。
下のグラフは、とあるブランド企業における顧客の総購入金額(LTV Revenue)、総粗利額(LTV Profit)、顧客獲得コスト(CAC)を表しています。 この企業の場合、顧客獲得コスト(CAC)の平均は400ドルです。総購入金額(LTV Revenue)は、5ヶ月後に顧客獲得コスト(CAC)をカバーできます。しかし、総粗利額(LTV Profit)を見ると、12ヶ月後もまだ赤字であることがわかります。
つまり、顧客の購入金額だけをLTVの指標とするのではなく、マージン(粗利益)もきちんと分析することで、企業の収益性を正しく把握することができます。
2. 正味現在価値と割引率
LTVは一般的に何年にもわたって計測されるため、資金の現在価値を考慮することが重要です。別の言い方をすれば、正味現在価値の把握です。
またLTVを正しく測定すためにもう一つ重要なのが、それぞれの商品にかけられる割引率を細かく把握することです。割引とは、単に売上金額に影響をあたえるだけではなく、ビジネス環境の不確実性を織り込んでいます。
通常、マーケティング担当者は、5%から10%の割引率を目標とします。消費者にとっては割引率が高いほど、商品を購入するハードルが低くなるので、購入回数は増えるかもしれません。しかし割引率が高くなれば、当然マージン(粗利率)も下がるので、このからくりを常に覚えておく必要があります。
3. 顧客寿命と解約率
冒頭で触れた計算式:平均購入額(AOV)× 特定期間(週/月/年)での購入数 × 顧客寿命 からもわかる通り、LTVとは顧客の生涯価値を表す数値のため、顧客が製品やサービスを購入し続ける平均期間、いわゆる顧客寿命を把握することが大変重要です。しかし多くの場合、顧客寿命を把握することは大変難しく、正確に把握するには様々な顧客データを集約する必要があります。
そこで、顧客寿命の代わりに用いることができるのが解約率です。解約率とは、前年と比べ商品の購入がなかった顧客の割合を示しています。例えば、2019年に商品を購入した顧客の75%のみが2020年に同じブランドから商品を購入した場合、そのブランドの解約率は25%となります。そしてこの契約率を1で割った数値(1÷0.25 = 4)が顧客寿命となります。
このように商品やサービスの特性上、自社の顧客寿命を追うのが難しい場合は、より簡単な方法で算出ができる顧客解約率を用いたり、業界の市場調査レポートに記載されている標準的な顧客寿命を一つの指標として活用することが有効です。
4. 影響力の評価
ブランド企業のお客様の中には、購入以外の方法でビジネスに貢献をしてくれるロイヤル顧客がたくさんいます。例えば、他のお客様の購入を促したり、ブランドのファンになるきっかけを与えたりするブランド インフルエンサーが存在します。 Marigold LoyaltyやCheetah Digital by Marigold の分析機能を活用すると、このようなロイヤル顧客を可視化したり、ブランド アンバサダーを増やすためのマーケティング施策を実施することが可能です。
ゴルフ業界では、どこのゴルフ場でプレーするか、どの用具を購入するかを他人に代わって決定するプレーヤーが多くいます。このようなお客様は、周りの潜在顧客を連れてきてくれるので、自身の購入金額の合計よりも高い収益をゴルフ場の運営企業にもたらします。
KemperSportsのEVPのベン・ブレーク氏によると、一人のゴルファーがプレーする時間(「ティータイム」と呼ばれる)を予約すると、ゴルフ場の運営クラブは誰が予約をしたのか、一緒にプレーするグループの人数、そして多くの場合、そのグループ内のプレイヤー全員の名前を把握することができると言います。運営クラブは、ティータイムを予約するプレーヤーのパターンを分析し、明らかに他のプレーヤーの行動に影響を与えている顧客に対しては、インフルエンサー調整(一人のインフルエンサーからより多くの収益を得られるよう、マーケティング キャンペーンを調整すること)を行っています。
このように、単純に一人の顧客の購入金額だけを追うのではなく、各顧客が生涯にわたって自社のビジネスにどれだけの価値をもたらすのか、他社の購買行動にどんな影響を与えるかを理解することも重要です。
5. 顧客セグメント
LTVを向上させるための分析や対策を行う際には、どのブランドにおいても ”平均的な顧客はほとんどいない” ということを知っておくことが重要です。そして、LTVは顧客セグメントごとに把握する必要があります。そうすることで、各顧客セグメントの獲得と特定のセグメントへのサービス提供にいくら投資すべきか、そこからいくらの収益を見込めるかを把握することができます。
下のグラフは、あるブランドにおける顧客全体の平均LTV(AVG LTV)を水色で示しています。このブランドの顧客全体の平均LTVは約550ドルですが、3つの顧客セグメント(Top Segment / Middle Segment / Low Segment )ごとのLTVを比較すると、大きな違いがあることがわかります。一番上のセグメント(Top Segment)のLTVは、1,200ドルを越えていますが、中間層(Middle Segment)は約700ドルです。一番下のセグメント(Low Segment)は約200ドルのLTVを生み出していますが、CAC(顧客獲得コスト)を大きく下回っています。
それぞれの顧客セグメンテーションを考慮しない場合、このブランドの顧客全体の平均LTVは7ヶ月でCAC(顧客獲得コスト)を超えると予測されます。しかし、一番下のセグメント(Low Segment)だけは、7か月を越えてもCACを上回ることができないため、具体的な改善アクションが必要になります。
このように、顧客セグメントごとのLTVを細かく分析すると、どの顧客へのマーケティング施策を改善すべきかを簡単に把握することができます。
正しいLTV計測でロイヤルティ戦略を加速させる
結論として、ロイヤルティ マーケティング戦略はLTVの向上をゴールとしているため、LTVを正しく測定し、マーケティング戦略の指針とすることは、ビジネスにとって非常に重要です。しかし、LTVの測定はそれほど単純ではないことをこのブログを通して理解いただけたのではないでしょうか?
今回ご紹介した様々な指標を用いて、LTVを多面的に測定することができれば、何に投資をすればよいかだけではなく、どこにリスクがあるかを把握することができます。このブログがLTVを長期的に向上させるためのアクションプラン作成のヒントとなれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ブログシリーズ:
– その1: 潜在顧客を可視化する顧客エンゲージメント データの活用
– その2: 顧客ロイヤルティを向上させるソフトベネフィットとパーソナライゼーション
– その3: LTV(顧客生涯価値)の計測方法と向上方法(←本記事)
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