強固なブランドパーパスと柔軟な共創が若年層にも響く!イケアのオムニチャネル戦略

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グローバル企業がオムニチャネル展開をする際に気をつけているのはどんなことでしょう。企業としてのブランドパーパスは守りつつもローカルに適合した施策で愛される秘訣を、イケアのコマーシャルマネージャーに伺いました。

この記事では、チーターデジタルが運営するマーケター向け学習プログラム「Marketing DX Academy」にて開催したウェビナー「イケアの360度オムニチャネル顧客戦略とは?起点はブランドパーパス!」をダイジェストにてお届けします。

ウェビナーゲスト:イケア・ジャパン カントリーコマーシャルマネージャー ニコラス・ジョンソン氏
ホスト:チーターデジタル 副社長 兼 CMO 加藤 希尊
執筆:那波りよ

ウェビナー資料より

1 イケアとは

イケアは、1943年にスウェーデン南部の森の中で、小さな通信販売会社としてスタートしました。そこから世界最大級のホーム・ファニッシング・カンパニーに成長し、2023年には80周年を迎えます。

1-1 イケアのビジョン

イケアのビジョンは「より快適な毎日を、より多くの方々に」です。優れたデザインと機能を兼ね備えたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、手ごろな価格で提供することにグループを挙げて取り組んでいます。

「私たちが最終的に達成したいことは、『Happy life, great life at home』であり、何を売っているのかは、その実現のための手段でしかありません。イケアのビジョンは私自身にもインスピレーションを与え、原動力になっています」とジョンソン氏は言います。

イケアでは、幅広い製品群を開発するための要素として、次の5つを挙げています。まず、サステナブルな素材と方法で製品を生産すること(Sustainability)。スカンジナビアの伝統を受け継いだ優れたデザインであること(Form)。何年経っても美しい、本物の耐久性をもつこと(Quality)。そして製品が家庭の中で役に立つ機能性を持つこと(Function)。最後に、これらが誰にでも手が届く価格で実現されていること(Low Price)です。

1-2 ロイヤルティの原動力

皆さんはロイヤルティの原動力は何だとお考えでしょうか。

「私はパーパスこそがロイヤルティの原動力だと思います」とジョンソン氏は解説しました。

イケアには3つのパーパス(企業理念)があります。

1つは『Better homes』。なぜならHappy Lifeは素敵な家から始まるからです。

次に『Better lives』。家庭でのより良い暮らしだけでなく、多様性を内包した平等性を持ち、人々が「受け入れられている」と感じることが、幸せには重要です。

そして『Better planet』。イケアは、スタッフや顧客と一緒にサステナビリティに熱心に取り組んでいます。

1-3 サステナビリティとビジネス

「現在、地球を救うための最も重要な10年がすでに始まっています」とジョンソン氏は続けます。「もはやサステナビリティはビジネスの一部ともいえます。なぜなら、もし大企業が地球に対して責任を持たなければ、より良い地球にはなり得ないからです。新しい世代はパーパス志向であり、責任を取らない企業に対して非常に批判的です。スタッフや顧客、社会全体との根本的なコラボレーションの中でこそ、企業は真に発展していきます。ビジネスとサステナビリティの両方の観点からの共創が、これからの企業の成功に不可欠なのです」とジョンソン氏は解説しました。

1-4 国によって異なる『Better homes』の実現

イケアはグローバル企業ですが、ローカルマーケットを大切に考えています。『Better homes』は国によって定義が異なるので、日本なら日本市場の特徴やユニークさを理解し、日本の消費者に合う、暮らしの提案をしています。

例えば日本市場特有のインサイトには『スモールスペースリビング(狭いスペースでの暮らし)』があります。店舗やショールーム、TVCMなど、あらゆるコミュニケーションにおいて、他の市場よりも「小さな」ソリューションの考慮が欠かせません。とはいえ、スモールスペースリビングは、日本に限らずほとんどの大都市で必要なソリューションでもあります。だからこそ、日本で学んだことは、他国にも広げ、発展させることができます。

また、核家族化、単身世帯、高齢者の居住形態が増加しており、変わりゆく顧客層のニーズに対応する新しい製品を開発していくことも重要です。

2 イケアの日本における店舗展開戦略

イケアにはグループ全体で「より手ごろな価格で提供すること」「よりサステナブルになること」「より利用しやすく身近な存在になること」という3つの長期的な方向性があります。

この3つを叶えるために、現在、世界64カ国に474店舗を展開しています。

2-1 ユニークな新業態『シティショップ』の取り組み

日本では2020年6月以降、新宿、渋谷、原宿に3つのシティショップ(都心型店舗)がオープンしました。シティショップは都心に住む人がイケアのリアル店舗にアクセスできる世界的にもユニークな取り組みで、新たなターゲットへのリーチを広げました。車を所有せず、郊外にあるスタンダードストアにアクセスしにくかった人たちがイケアを体感し、より深く理解する機会を作り、来店層として取り込んだのです。

シティショップは商品のグループ分けや品揃えが、スタンダードストアとかなり異なります。フード類もおいており、それが重要なポイントです。家具は毎日購入しませんが、フードは毎日必要だからです。その結果、シティショップでは20代前半層が多く見られます。この層を将来的なロイヤルカスタマーに育てるのが、次のステップです。

2-2 スタンダードストアの役割

スタンダードストアは、オムニチャネルのエコシステムを支える重要な存在です。広い店内で多くの商品に触れられる、ホームファニシングショールームとしての機能を持ち、イケアに対して関心の薄い方が来店されても、その方をファンに変える原動力になっています。

日本には現在9店舗を展開中で、2024年には前橋に10店舗目がオープン予定です。

3 イケアにおけるオムニチャネルアプローチ

3-1 イケアのECは総売上の5%から20%に急成長

イケアは2017年にECを開始し、現在では総売上の20%をオンラインが占めています。

イケアのオムニチャネルリテーラーへの進化は、コロナ禍で加速しました。人々は自宅で多くの時間を過ごし、そのことは、人々が自宅の機能性や美しさ、快適さを見直すきっかけになりました。多くの人が、自宅を改善したいと真剣に検討し始め、ホームファニシングへの関心が非常に高まったのです。それがイケアのオムニチャネル展開のタイミングと合致し、オンラインビジネスが5%から現在の20%へと急成長しました。

3-2 さまざまなタッチポイント

イケアでは、他にもさまざまなタッチポイントを展開しています。

●RCMP (リモート・カスタマー・ミーティング・ポイント)
1つはカスタマーサポートセンターです。こちらはRCMPという呼称で、トラブル対応にとどまらず、リモートセールスもおこないます。また複雑な家具のプランニングや、インテリアのヒントやアイデアをリモートで提供し、ブランドドライバーになっています。

●IKEA APP
イケアは、店舗とデジタルをつなぐ手段として2020年からアプリを導入。商品を探すのも買うのも、より簡単になりました。また、アプリを利用した『Scan&Pay』も導入。イケアストア内で商品をアプリでスキャンし、店舗から出る時に商品を購入できるシステムで、大いに時短に貢献し、オムニチャネルへの大きな一歩となりました。

●商品受け取りセンター(ピックアップポイント)
今後のオムニチャネル展開として、16カ所の商品受け取りセンターの設置を予定しています。顧客が注文した家具を自宅近くで受け取れるピックアップポイントを設置し、中間配送に対応する方法です。「通販を利用しやすくなる」と、顧客から大きな関心を寄せられています。

4 日本で860万人の会員を有するロイヤルティプログラム『IKEA Family

イケアのロイヤルティプログラム『IKEA Family』は、2023年現在で860万人の会員を有し、大多数がアクティブユーザーです。イケアではこの『IKEA Family 』にて消費者インサイトのデータを集め、マーケティングコミュニケーションにおいて顧客のために使っています。

IKEA Familyプログラムのユニークさは、顧客とのレリバンス(つながり)の創出にあります。例えば、現在2歳のお子さんを持つ会員には、5年後、お子さんが小学校に通い始める頃に適切なオファー出します。購入履歴や生活状況、年齢などのさまざまな情報からパーソナライズされたユニークなオファーを提供するのです。イケアにとって、人々の期待にそうものを提供することは重要なこと。プログラムが魅力的なことは、その開封率の高さにも表れています。また、会員には暮らしをよりよくするアイデアや方法が満載のホームファニッシング教室をオンラインとオフラインの両方で提供し、好評を得ています。

さらに地域社会との連携もプログラムの一部です。たとえば日本では、IKEA Familyカードが1回利用されるごとに10円を寄付しています。このようなパーパス志向のプログラムであることも魅力のひとつです。

5 マーケティングにおける360度オムニチャネル顧客アプローチ

「イケアブランドの知名度を上げるために、我々はマスメディア、いわゆるプッシュ型のメディアに頼っています」とジョンソン氏は述べます。それと同時にデジタルメディアなどを通じて、特定のセグメントに焦点を当てたアプローチもしています。IKEA Familyにてターゲットを絞り、リワードプログラムを活用してリピーターを獲得する仕組みも作っています。

「プロモーションのためにあるトピックを扱う場合は、店舗からRCMP、外部メディアまで、すべてのチャネルで、イケアの方向性や優位性を打ち出す一貫したメッセージを強化します。イケアでは、これらのコンビネーションを『360度オムニチャネル顧客アプローチ』と呼んでいます」(ジョンソン氏)

6 共感してくれる「ユーザー」をエンゲージメントある「顧客」へ

最後に『ユーザー』についてジョンソン氏は述べました。ユーザーとは、パーパス(企業理念)に共感し、好きでいてくれる人たちです。顧客よりもはるかに数が多いものの、すべてのユーザーが顧客とは限りません。

イケアでは、戦略的に彼らにリーチするため、SNSなどで、共創をオープンにしています。人々のクリエイティビティとイケアとの組み合わせは、プロモーションとして重要なのです。

「企業にとって、顧客が求めるものに焦点を当てた顧客中心主義であることは重要です。そのため、顧客やスタッフとの共創は、ブランドを発展させ進化させる良い方法のひとつです。

とはいえ、ブランドにはブランドが持つべき価値観と哲学があります。だからこそ、顧客の声に耳を傾けつつもブランドが訴求する主張やビジョン管理も大切にし、そこからベストな方法を見つけていくのです。強いブランドパーパスにもとづくからこそ、オムニチャネル戦略が意味のある形で顧客に届き、多くの顧客に支持されるオープンなブランドが形成されます」とジョンソン氏は締めくくりました。

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