ゼロパーティデータの先駆者Spartyが明かす収集・活用のコツ

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顧客データの重要性を認識し、収集している企業は多くあります。しかし、実際にデータを活用して、価値ある顧客体験を生む手段は講じられているでしょうか。この記事では、チーターデジタルが運営するマーケター向け学習プログラム「Marketing DX Academy」にて開催したウェビナー「ゼロパーティデータ×パーソナライズで顧客に選ばれる理由を作るには? Spartyに聞く、顧客理解のアプローチとパーソナライズ実行のためのポイント」のダイジェストをお届けします。

ウェビナーゲスト:Sparty love passport mila ブランドマネージャー 西田 将之さん

ホスト:チーターデジタル 副社長 兼 CMO 加藤 希尊

執筆:那波りよ

ウェビナー資料より

1. ゼロパーティデータを活かし独自の顧客体験を提供

Spartyは、ヘアケア、スキンケア、インナーケア、フレグランスといった美容カテゴリーで、パーソナライズのサブスクリプションサービスを展開。累計約50万人の会員を有しています(2022年2月時点)。Spartyのカスタマージャーニーはブランドを通じて統一されており、「答えを提示する」のではなく「悩みを分かち合う」ことを大事にしていると言います。

Spartyのカスタマージャーニー(ウェビナー資料より)

具体的には、購入時にまずアンケート(診断コンテンツ)を実施し、顧客の一人ひとりに合った商品を提供。アンケートを繰り返すことで、よりパーソナライズされた商品が届きます。ゼロパーティデータの取得を通じて「おすすめ」を提案することが、重要な価値になっていることがわかります。

 「肌や髪の状況は季節や年齢によっても変わるので、美容系商材にはある意味『ゴール』がありません。ですから弊社は、正解を一発で決めるというより、ずっと寄り添っていくことを大事にしています。最初にアンケートに回答していただく段階においてもマッチ度はかなり高いのですが、2回目のフィードバック以降は、さらに高い評価をいただけるようになります。情報収集を定期的に実施し、データをきちんと活用してお客様への還元を継続しています」(西田さん)

顧客はアンケートを通じて自分の悩みや理想のイメージといったゼロパーティデータを提供しますが、「この処方が自分に合う」という明確な答えを持っているとは限りません。この点が、自分の好みやサイズ、着用シーンなどがはっきりしているオーダーメイドスーツなどとは異なります。

2. 商品開発やサービス改善にもデータを活用

 ゼロパーティデータの収集は、商品開発やサービス改善にも有効です。西田さんはデータの蓄積が深く広くなることで、他の事業に活かせるインサイトを得ることができると明かします。

 「お客さまの深いインサイト・興味・関心・悩みが探れるゼロパーティデータは、あらゆるサービス設計で使えます。いち早く蓄積を始めることで、先行者優位が得られる領域です」(西田さん)

たとえばパーソナライズフレグランスの「love passport mila」は、2018年にリリースしたヘアケア商品「MEDULLA」のフレグランスに対する満足度や重要度の回答データをもとに顧客をマッピングし、香りの嗜好性を分析することで開発されました。

love passport mila (Sparty提供)

 「『自分に合うものがわからない』という商品カテゴリーほど、パーソナライズの価値を高く感じていただける傾向があります。お客さまへのアンケートから、多くの方が香水ビギナーであり、使用体験が少ないこともわかりました。ですから love passport mila には、商品名に合わせて、50ページほどのパスポートを模したフレグランスガイドブックを付けて、使い方に関する情報もお届けしています」(西田さん)

3. 価値あるインサイトを得るアンケートの作り方

続いて、MEDULLA と love passport mila のアンケート内容を例に、価値のあるインサイトを得る設計のコツをお話しいただきました。MEDULLA では、頭皮の状態、髪の長さ、ボリューム、ダメージレベル、悩み、ヘアケアに求める要望、なりたい髪、どんな香りに包まれたいのか、どんな自分にしたいのかなどを聞いています。 love passport mila でも、香水を使う頻度、使用シーン、好きな香り、苦手な香り、周りにどんな印象にみられたいかといった項目を用意しているそうです。

MEDULLAの質問(左)と、love passport milaの質問(右)ウェビナー資料より

設問の作り方について、西田さんは以下のように説明しています。

 「最初の診断では、As-IsとTo-Beはかなり意識しています。現在の状態(As-Is)の困りごとを解決する手段と、理想の自分(To-Be)になるための手段は別軸のものになりますが、弊社は、両方を叶える商品の提供を目指しています。

 両方を叶えていくために、まず1回目では『現在の悩みをマストで解決していく』スタンスで質問をします。2回目、3回目以降のお客様には使用感を中心に尋ね、最終的な理想であるTo-Beもバランスよく加えてヒアリングします」(西田さん)

love passport milaのアンケート画面(ウェビナー資料より)

 また西田さんは、アンケートを実施する上で注意していることとして「主観的な回答が必ずしも正しいとは限らない」ことを挙げています。

 「例えばとろみのあるテクスチャーが好きだと回答しても、使ってみると『これじゃない』と感じることはよくあります。また、ご自身では乾燥肌だと答えても、実は乾燥とオイリーの混合肌というパターンもかなりあります。そこで、最初にできるだけ客観的なファクトで回答を引き出しつつ、2回目以降にはご自身の回答を再確認する質問も入れています」(西田さん)

 そのほかにも次のようなTipsを明かしていただきました。

抽象度の高い質問はできるだけ後ろに

「どんな自分になりたいか」など、抽象度の高い質問を減らす。質問する場合はできるだけ後ろに置く。終盤であれば少し時間がかかる抽象度の高い質問をしたとしても、「ここまで答えたのだから最後まで答えよう」とハードルを乗り越えてもらいやすい。

関連性の高い質問は近い場所に配置

設問に答える際、回答者はその設問以外のことも無意識に考えている。質問の流れにおいても、たとえば「好きな香り」と「苦手な香り」はそれぞれを単発で質問せず、並べて同じ選択肢で尋ねる。

ペルソナから逆算して設問を作る

アンケートを設計する前に、商品に対してどういう悩みを持つ人が買い、どういう体験を望んでいるかを書き出し、ポイントを見つける。その顧客をペルソナとして置いた上で、「そのお客様に質問するならどう訊くのか」という軸で質問を考えていく。

「例えばリテールや百貨店の美容部員さんの接客設問集を設計するイメージです」(西田さん)

4. 「顧客に合わせて変えていくこと」が重要

ゼロパーティデータを活かしたビジネスでは、ブランドを継続利用してもらうこと、つまり顧客ロイヤル化の条件はどのようなものなのでしょうか。Spartyの分析では、2回目以降のアンケートへの回答率・満足度がカギであることが見えています。

 「フィードバックを反映した『答え』である商品を提供したタイミングでの満足度が高いこと。これが一番ロイヤル化に近い、大事な指標です。1回目の満足度が70%でも、2回目で100%にできたなら、インサイトを活かしてお客様に答えを提供できたということになります。これができると、かなり高い確率でロイヤル化していきます。2回目以降のアンケートは、メールやLINE、同梱物などでアナウンスしていきます。パーソナライズ商品の良さを説明し、答えることの価値やメリットを理解していただくことが非常に重要です」(西田さん)

では、アンケート回答を通じて情報を提供することが顧客のメリットにつながる、と伝えるためには、どうすればいいのでしょうか。西田さんは次のように話します。

声を反映して処方が変わる、回答することで理想に近づく、ということを実感してもらうことが大切です。そのため『変えていく』と伝えることを大事にしていますし、『非常に満足』と答えた方以外は、処方を変えていくようにしています」(西田さん) 

5. 今後求められる3つのアクション

Spartyのように製品レベルのパーソナライズを行わないブランドにおいても、今後、ゼロパーティデータの重要度は増していきます。チーターデジタルが実施した、日本を含む7カ国、5,000名以上の消費者調査でも「パーソナライズされていないコンテンツや体験には、抵抗感が強く現れている」という結果が出ています。インサイトを獲得して顧客理解を深め、パーソナライズされた体験を作り出すことは、顧客に選ばれ続けるために欠かせない取り組みです。

では、これからのブランドはどんなアクションをとるべきでしょうか。西田さんは3つのアクションを紹介してくれました。

 1つ目は、顧客データを扱える状態で収集・蓄積すること。西田さんは「向こう5~10年で、深い顧客インサイトを探求して開発された商品しか受け入れられない時代が来る」と予想します。安くて質もいい商品を大量に作って消費する時代から、D2Cの台頭が象徴するように、個人化の時代にシフトしつつあります。パーソナライズやレコメンデーションの価値が今以上に強く意識される時代に備えて、データ収集・活用のスキームを整えておきましょう。

 2つ目は、マーケターが「パーソナライズデータの収集」と「お客様満足度の向上」は同時に実現すべきという認識を持つこと。顧客は正直な自分の状況を知らせる代わりに、より良いサービスを期待しています。企業はその期待に応えて、価値を還元することが重要だといいます。

 3つ目は、データを収集する以上、きちんとした情報・サービス・商品を提供することです。パーソナライズ化を進めるとセグメントがどんどん細かくなり作業は増えますが、それを丁寧にやることが大切になります。「難易度は高いですが、やり切ることができると非常に高い価値になります」(西田さん)

ゼロパーティデータとパーソナライズには、これからのマーケティングの可能性があります。本記事をマーケティング戦略の見直し・アップデートにご活用いただければ幸いです。

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チーターデジタルが運営するマーケター向けの学習プログラム「Marketing DX Academy」では、この記事で取り上げた西田さんと加藤のウェビナーをフルバージョンでご覧いただけます(視聴時間:約47分)【受講無料】

(その他のコンテンツの一例)

・Z世代のコミュニケーション インサイトを徹底解説(ウェビナー・原田曜平さん登壇)

・“現代版“ロイヤルティ プログラムの設計図(ウェビナー・西井敏恭さん登壇)

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