パーソナライゼーションによるロイヤルティ構築

Day1-1

チーターデジタルが開催した「Japan Signals」では、3日間にわたり開催された全6セッションを公開しました。1日目第1回のセッションでは、THE NORTH FACEそしてVANSでロイヤルティプログラムを立ち上げた、業界の第一人者イアン・デュワー氏が日本初登壇。「データの出口戦略としての顧客ロイヤルティ」と題し、パーソナライゼーションによるロイヤルティ構築について、豊富な実例とともに紹介してくれました。本稿では、セッションのダイジェストを紹介します。

THE NORTH FACE、VANSのブランドパーパス

VF Corp Global Director Consumer Analytics イアン・デュワー氏

企業規模120億ドル、世界で10以上のブランドを展開しているVFコーポレーション。同社のイアン氏は、THE NORTH FACEそしてVANSのロイヤルティプログラムを立ち上げました。
「エモーショナルロイヤルティの構築には、まずそれぞれのブランドパーパスを理解してもらうことが必要」とイアン氏は話します。

「THE NORTH FACEのブランドパーパスは『冒険で世界を切り開く』です。外の世界に飛び出して冒険する中で多くのことを学んでいくこと、それを奨励したいと考えています」(イアン氏)。

セッションでは、アウトドア活動を奨励しエモーショナルロイヤルティを築いて、新規及び既存の顧客にTHE NORTH FACEの魅力を伝えるキャンペーン動画も紹介されました。
※キャンペーン動画は本編をご覧ください。

「VANSは若者が本当の自分を表現し既成概念にとらわれることなくクリエイティブな若者文化を創造していくことを応援しています。VANSで大切にしているのは表現のユニークさと創造性。それが顧客とのつながりの中で一番重要なことだと考えています」(イアン氏)。
イアン氏はこう続けます。「ロイヤルティを築く上で最初に考えるべきことは、顧客のニーズです。THE NORTH FACEの顧客が求めているのは、世界を探求し創造性を発揮できる製品。本当に好きなことをするための製品です。VANSでは単に新しいスニーカーを売るのではなく、若者に好きなことをする機会を提供しているのです」。

購買行動の調査結果から会員プログラムの導入を開始

THE NORTH FACEとVANSは、店舗における顧客の購買行動に関する調査を実施。その結果、以下のような傾向が明らかになったといいます。

【THE NORTH FACEの顧客の傾向】

  • 季節性が高く、およそ半数がリピーター。満足度が高く、大半が活動的な人たち
  • 高収入で、他の人のために買い物をする頻度も高く、天候に敏感

【VANSの顧客の傾向】

  • 女性客や親との同居者が多い
  • 多様なチャネルで製品を購入している

「顧客が自分らしさを表現できるプログラムをつくることで、エモーショナルロイヤルティの基盤が構築されます。顧客が次に買いたいと思う最善の製品、最善の購入方法、最善のアイテムは何かを考えるには『何を買うか』ではなく、『それを使って何をするか』を本気で考えることです」(イアン氏)。
イアン氏は、顧客の行動を理解するには購買行動ではなく「実生活の中でどのような行動をしているのか」を理解することが最も大切だと語ります。その考えから生まれたのが、THE NORTH FACEの「XPLR PASS」、VANSの「VANS Family」という2つの会員プログラムです。

【THE NORTH FACEのXPLR PASS】

以前の「VI Peak REWARD」をリニューアルしたXPLR PASSでは、製品購入以外の方法で顧客がエンゲージメントできる機会を大幅に増やしました。

<XPLR PASSの特典>

  • 製品購入時に加え、THE NORTH FACEの店舗や国立公園にチェックインしたり、友達を紹介したりすることでもポイントが付与される
  • 店舗にマイバッグを持参すると、環境保護に貢献したとしてポイントが付与される
  • 専門家の助けを受けられる専用カスタマーサービスが利用できる
  • メンバー限定のフィールドテストに参加できる
  • 各種イベントに参加できる
  • 限定商品を購入できる、など

【VANSのVANS Family】

VANSでは、特に顧客のオリジナリティやユニークさを大切にしており、VANS Familyの会員になることで一般消費者が手に入れられない、以下のような特典を用意しました。

<VANS Familyの特典>

  • 限定製品を先行購入したり会員限定の体験を受けたりすることができる
  • パーソナライズされた限定コンテンツへアクセスできる
  • ストーリーテリングビデオムービー、新製品などVANSが発信・提供するすべてを先行して観たり手にしたりできる
  • VANSグッズが当たる懸賞に応募することができる
  • VANSのオリジナルグッズ(ステッカー、ワッペン、iPhoneの壁紙、マグカップ、ランチボックス、タオル、Tシャツ)を手に入れることができる

「この2つの会員プログラムにより、顧客のオリジナリティが見えてきます。どちらのプログラムでも、会員は自分の主な活動を登録し特典を受けることができます」(イアン氏)。

顧客のプロファイル

「VANS Familyが顧客のエモーショナルロイヤルティを築くことができるユニークな理由は、コンテンツのカスタマイズができる点にある」とイアン氏は語ります。

VANS Familyの会員は、はじめにスケートボード・サーフィン・スノーボード・BMX・音楽・アート・友達と出かけるなどの選択肢の中から、「一番好きなこと」3つを回答。次に、そのうち一番好きな活動をどのくらいの頻度で行っているか、どのくらい得意かにも答えてもらいます。これらの質問により顧客の傾向を把握することができ、適切な顧客に、適切なタイミングで、適切なメッセージを届けることが可能になるといいます。
会員は、自分自身のことを語ることで、自分が求めているものを特別に提供してもらえるユニークな機会を得られるメリットがあります。両プログラムは、会員になった瞬間からパーソナライズされた体験が始まっていると言えるでしょう。

「エモーショナルロイヤルティ構築で一番重要なのは、顧客を十分に理解することです。顧客と密接な関係を築くためには、顧客にも自分たちのことを教えてもらわなければなりません。VANS Familyのオンボーディング、THE NORTH FACEのアンケート、イベントへの招待、Web閲覧、メール、その他様々な場面での顧客とのやりとりを通して、顧客がどんな人物か理解することができれば、彼らが何に興味を持っているのかを予測するプロファイルを構築することができます。それに則して、顧客に適切なコンテンツでアウトドアでの体験を豊かにする製品を提供することができるのです」(イアン氏)。

顧客のプロファイルの活用

セッションでは、各ブランドの予測プロファイリングのモデルについてイアン氏に説明していただいています。詳しくは動画をご覧ください。
その予測プロファイリングを使った、各ブランドの実例は以下のとおりです。

  • THE NORTH FACE

THE NORTH FACEでは、2021年の春に新たなランニングシューズ“VECTIV”を発売。このシリーズは、快適でサポート力のあるシューズを履いて、限界に挑戦したいという「ランナーによるランナーのためのシューズ」です。
販売にあたってXPLR PASS会員への先行発売から始め、会員限定のカスタムシューズも用意。その後、ランニングプロファイルモデルを使ってメールやSNS デジタルマーケティングでコンテンツ配信を行い、このシューズの特徴や世界中での反響を伝えました。

また、新学期が始まる時期に合わせてバックパックに注力したキャンペーン「Back to School」も「適切な顧客に、適切な製品を、適切なタイミングで売る」ための好例と言えます。
※Back to Schoolキャンペーンの詳細は動画をご覧ください。

  • VANS

VANSのプロスケート製品でも同じ手法が用いられました。VANS Family会員のスケートボードへの関心度の高さを考慮しながら、会員限定のスケートボードシューズ“HALF CAB”を販売するキャンペーンを実施。スケートボードへの関心度が特に高い人にメールを配信しました。
さらに、もう一歩踏み込み、スケートボードをやる頻度を元にしてSNSなどのデジタルメディア上で、最適な顧客に新製品やスケート用の“OLD SCHOOL”などのシューズを宣伝。

これらの取り組みは、予測プロファイリングを使った顧客エンゲージメントやマーケティングの好例と言えるでしょう。イアン氏は「私たちは、何かについて関心が高いと思われる最高の顧客に、最高の製品を最初に見てもらいたいと思っています。顧客に関心事を教えてもらうことで、私たちの関心も同じだと伝えられます」と語ります。

エモーショナルロイヤルティは顧客理解から

イアン氏は、エモーショナルロイヤルティの構築について次のように話します。「私たちは、顧客と真の感動的なつながりを築くことで当社の製品をさらに使ってもらえると信じています。私たちのブランドについてもっと深く知ってもらうことで、XPLR PASSの会員やVANS Familyの会員をはじめ、顧客は私たちのより良いパートナーとなってくれると信じているのです」。

また、ロイヤルティデータの活用方法については「『顧客のやりたいことを知る』、これは両ブランドのロイヤルティプログラムから得られた最も重要なことです。顧客がどんな人で当社の製品を買っていない時、何をしているかをより深く理解できれば、充実したデータをもとにメッセージを発信できます。パーソナライズされたメッセージを作成する目的は、顧客との関係性を高め、私たちのブランドをもっと深く知ってもらうことです。メッセージは顧客が好むチャネルで発信します。ロイヤルティを築くことができればキャンペーンの効果を測定し、顧客がコンテンツを見た反応や製品を購入した後のことをより深く理解できます」。

セッションでは、THE NORTH FACEやVANSの、コロナ禍でも顧客とのつながりを作る複数のキャンペーンについても紹介しています。
さらにセッションの最後では、実際にマーケターが顧客ロイヤルティ向上のために取り組むべきこととして、イアン氏に対して3つの質問をしています。

  • 顧客により良い体験をもたらしブランドへのロイヤルティを高めるためには、どのようなゼロパーティデータを収集するべきか?
  • 顧客行動には様々な段階(認知、興味・関心、来店、製品を比較して購入するステージなど)がありますが、VANSやTHE NORTH FACEがロイヤルティ向上の観点で、注力もしくは気をつけているステージはどういったところか?
  • 割引やクーポン 商品の無料提供といったハードベネフィット、新製品の先行購入や特別な体験を提供するというソフトベネフィット、これらをどのように組み合わせ、ブランドのユニークな顧客体験を実現しロイヤルティを築いているのか?

これらに対するイアン氏の示唆に富んだ回答については、ぜひ動画でご確認ください。

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